はじめての海外展開の際に注意すべき商標の落とし穴とは?(弁理士 羽鳥慎也)

こんにちは、弁理士の羽鳥慎也です。
3月21日前橋商工会議所で開催された
「はじめての海外展開セミナー~海外展開の落とし穴を回避!成功に導く商標権の知識~」
というテーマで講師を務めさせていただきました。

このセミナーでは、これから海外に事業展開を考えている企業や個人事業主の皆さまに向けて、
海外展開における商標取得の重要性や、商標権を取得しないことによるリスクについて、
具体的な事例を交えて分かりやすくお話ししました。
海外進出を検討する際に「商標は後で考えればいい」と思われがちですが、それは大きな落とし穴。
早期の商標戦略こそが、ビジネスを守り、成功に導くカギとなります。
今回は、そのセミナーで取り上げた内容の一部をご紹介しながら、
海外展開における知財の重要性についてコラムでも少し掘り下げてみたいと思います。
セミナー資料については、コチラから閲覧できます。
1.商標とは?そしてなぜ必要なのか
「商標」とは、商品やサービスを他社と区別するために使われるマークであり、
企業やブランドの“顔”となるものです。ただし、商標は単独では権利にならず、
特定の商品やサービスとの組み合わせによって初めて法的な効力を持ちます。
そして忘れてはならないのが「属地主義」。
つまり、商標権は国ごとに別々に取得しなければならないというルールです。
日本で登録していても、海外では別の誰かに取られてしまう可能性があるのです。

2.海外展開の「落とし穴」――商標の先取りと模倣品の脅威
■ 商標は「早く使った者」ではなく「早く出願した者」が勝つ!
商標制度の基本原則のひとつが「先願主義」です。これは、
誰が先に使用したかではなく、誰が先に出願したかが重視される という原則です。
つまり、たとえ日本企業が国内外でそのブランドを長年使っていても、
現地で他人が先に出願して登録されてしまうと、そのブランドを使えなくなる可能性があるのです。
特許や意匠の場合、新しいアイデアやデザインが公開された後では、
誰も権利化できない(新規性喪失)ため、勝手に他人が登録するのは基本的に不可能です。
しかし、商標は後出しでも出願できるため、
商品が話題になった後に第三者が勝手に商標出願する「冒認出願」が世界中で多発しています。

■ 実際のトラブルになると…
他人に先に商標を取られてしまうと、以下のような深刻な事態に発展します:
- その国で商品が販売できなくなる
- 現地で自社製品が「商標権侵害」とされ、逆に訴えられてしまう可能性すらある
- 正当な権利者であるはずの自社が「ニセモノ扱い」されてしまう
そして、冒認出願された商標を無効にするための訴訟や交渉には多大なコストと時間がかかります。
また、セミナーでは、多くの日本企業が実際に直面したトラブル事例をご紹介しました。
- 「スカイベリー」などのブランド名が中国で第三者に先に登録されてしまったケース
- 「無印良品」が一部商品について中国企業に商標権を取られ、逆に訴えられたケース
これらの事例に共通するのは、「知らない間に商標を奪われていた」ということです。
模倣品が市場に出回れば、
ブランド価値の低下や売上の減少だけでなく、消費者の信頼まで失いかねません。
このような商標の先取りを防ぐべく、とにかく早く商標登録を行うことが重要となります。
3.海外での商標取得とそのポイント
海外での商標戦略では、以下の3点が重要です:
- 出願国の選定
今後進出予定の国だけでなく、模倣品が出やすい国も要注意です。 - 「先願主義」のため、使う前でも出願が可能なタイミングで行うのが理想です。
- 出願方法と補助金の活用
マドプロ(国際出願制度)を活用すれば、複数国に一括出願できます。
また、JETROやINPITによる補助金制度を利用すれば、費用の2/3が助成されることもあります。

まとめ:商標=守るための壁 + 攻めのツール
商標は「守り」だけではなく、「攻め」のビジネスツール。
信頼性を証明し、模倣を排除し、契約をスムーズにし、そして企業の価値を高める――それが商標の持つビジネス上の力です。
海外展開においては、言葉や文化の壁以上に、「商標の壁」が企業の成長を左右します。
だからこそ、早めの対策と正しい理解が、グローバルな成功を引き寄せる鍵となるのです。
群馬県を拠点にする当事務所は、特許・意匠・商標などの知的財産権に関する豊富な実績を持つ弁理士が対応いたします。
知財に関するお悩みがありましたら、お気軽にご相談ください。
~群馬県で知的財産の商標・特許・意匠のことなら~
羽鳥国際特許商標事務所
所長/弁理士 羽鳥 亘
副所長/弁理士 羽鳥 慎也
弁理士 柿原 希望