万博キャラクター「ミャクミャク」とEXPO 2025を守る知的財産戦略

キャラクターは『守られる存在』
2025年大阪・関西万博(EXPO 2025)の公式キャラクター「ミャクミャク」。
発表当初から「かわいい」「不思議」「ちょっと怖い」など賛否両論を巻き起こしつつも、今や多くの人に知られる存在になりました。
こうしたキャラクターやイベントロゴは、注目されるほどに模倣や不正利用のリスクが高まります。もし、第三者が勝手にキャラクターを利用して商品化したらどうなるでしょうか? 万博のブランド価値が損なわれるだけでなく、消費者が「どれが公式か分からない」状態になり、イベント全体の信頼にも悪影響を及ぼしかねません。
そのリスクに備えて、万博では商標権と意匠権を組み合わせた徹底的な知財戦略を採用しています。以下では、実際にどのような権利が取得されているのかを詳しく見ていきましょう。
① 商標による包括的な保護 ― 名前とロゴを全方位から守る
商標権は、商品やサービスを識別する「名前」や「ロゴ」を独占的に守る仕組みです。ミャクミャクや万博関連では、この商標権が極めて広範囲に取得されています。
ミャクミャク関連の商標
これらはすでに商標として出願・登録されており、第三者が勝手に「ミャクミャクグッズ」などを販売することはできません。
万博名称・ロゴの商標
キャラクターだけでなく、イベントそのものを示す
・ 商標登録第6413544号:「OSAKA, KANSAI, JAPAN EXPO 2025」の名称
・ 商標登録第6413446号:「OSAKA, KANSAI, JAPAN EXPO 2025」のロゴマーク
も同様に商標登録されています。
45区分すべてでの登録
さらに注目すべきは、これらすべてが商標の45区分すべてで登録済みである点です。
商標は分野ごとに「区分」に分かれており、
例えば:
・ 第25類:衣服
・ 第43類:飲食サービス
・ 第41類:イベント企画・運営
・ 第9類:ソフトウェア・アプリ
といった具合に権利範囲が分かれています。
通常、企業は自社の事業分野に関係する区分のみを押さえるのが一般的です。
しかし、万博は国家的プロジェクトであり、グッズ販売・飲食・デジタル配信・イベント運営など、ありとあらゆる分野に関連が生じます。そのため、45区分すべてを権利化することで、不正利用の余地を完全に封じる戦略を取っているのです。

② 意匠による保護 ― デザインを具体的に押さえる
商標が「名前やロゴ」を守るのに対し、意匠権は「デザインそのもの」を守る権利です。ミャクミャクや万博関連では、以下の意匠が登録されています。
登録されている意匠
・ 意匠登録第1725617号:ぬいぐるみおもちゃ(ミャクミャク)
・ 意匠登録第1735315号:アイコン用画像(ミャクミャク)
これにより、キャラクターの立体造形(ぬいぐるみ)、デジタルで利用されるアイコン画像、さらにはボランティアスタッフのユニフォームまでが意匠権の対象となっています。
意匠権の強み
意匠権の大きな特徴は、「似ているデザイン」にも効力が及ぶことです。
たとえば:
・ 色や形を少し変えただけのそっくりぬいぐるみ
・ 公式ユニフォームに似せた衣装
・ キャラクターアイコンのトレース画像
これらも意匠権侵害となる可能性が高く、法的措置を取ることができます。
なぜ衣服まで?
ボランティア用ユニフォームを意匠登録しているのも重要なポイントです。
万博会場で「公式スタッフと偽装」するような行為を防止し、イベントの安全性と信頼性を確保する狙いがあります。デザイン保護は単に見た目を守るだけでなく、運営面でのリスク管理にも直結しているのです。

③ なぜここまで徹底するのか ― 国家プロジェクトにおける知財戦略
大阪・関西万博は、単なる一地方イベントではなく、日本全体を代表する「国家プロジェクト」です。世界各国からの来場者、海外メディアの報道、グッズ展開やスポンサー活動など、その影響は国内外に及びます。
もし、知的財産の保護が甘ければ、次のようなリスクが容易に想定されます。
・模倣グッズの氾濫
「ミャクミャク」を模したキャラクター商品や、「EXPO 2025」のロゴを使ったTシャツなどが、公式ライセンス品と区別できない状態で市場に出回る。
・ブランド毀損
粗悪な模倣品が広がれば、消費者の中で「万博のグッズは質が低い」という誤解を招き、公式商品の信頼性まで損なわれてしまう。
・イベントの安全性への脅威
公式ユニフォームに似せた衣服が流通すれば、悪意を持った第三者が「ボランティアスタッフ」を装って会場に紛れ込む可能性もある。
これらのリスクを考えれば、商標で「名前・ロゴ」を全方位的に守り、意匠で「キャラクターやユニフォームの形」を具体的に守るという多層的な知財戦略が不可欠であることが分かります。
つまり、この徹底ぶりは「模倣を防ぐ」以上の意味を持ちます。
それは、日本のブランドを国際社会に向けて維持・発信するための基盤であり、万博の成功を裏で支える重要なインフラなのです。

④ 中小企業にとっての教訓 ― 「守るべきもの」を見極める
ここまでの話を聞くと「万博だから特別なんでしょう?」と思われるかもしれません。
しかし、実際には中小企業や地域ブランドにも大きな示唆があります。
1. 商標で守るべきもの
まずはブランドの核となる名前です。
商品名、サービス名、会社名は、顧客にとって最も分かりやすい識別要素です。
この部分を商標登録しておかなければ、模倣や先取り出願によって自社の名前を自由に使えなくなるリスクがあります。
例:
・ 地域の特産品の名前(例:「〇〇珈琲」など)
・ 飲食店やサロンの屋号
・ 新しく展開するサービスブランド
2. 意匠で守るべきもの
次に、見た目やデザインです。
ロゴマーク、商品パッケージ、キャラクター、ユニフォームなどは、一見「デザイン的なもの」と軽視されがちですが、顧客にとってのブランド認識を大きく左右します。
たとえば、地元の和菓子店が特徴的なパッケージデザインを使っている場合、それを真似されれば「どちらが本家かわからない」状態になりかねません。意匠権で登録しておけば、こうした模倣を防ぐことができます。
3. 「全部守る」必要はない
もちろん、万博のように全方位で商標・意匠を押さえるのは中小企業には現実的ではありません。
大切なのは、「模倣されたら困る部分はどこか」を見極めて、そこに集中して権利化することです。
・ 名前やロゴは商標
・ パッケージは意匠
・ キャラクターやユニフォームも事業の核なら商標や意匠
という具合に、自社にとっての「優先度」を整理しておくことが、賢い知財戦略につながります。
群馬県を拠点にする当事務所は、特許・意匠・商標などの知的財産権に関する豊富な実績を持つ弁理士が対応いたします。
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弁理士 柿原 希望