《知らないと損する商品デザインの守り方》「有名なデザイン×著作権」の落とし穴。TRIPP TRAPP最高裁判決から考える

「うちの新商品のデザインは特徴的だから、著作権でも守れますよね?」
事務所でよくいただくご相談です。
お気持ちは分かるのですが、結論からお伝えすると、家具・雑貨・日用品といった量産される実用品については、著作権で守られるとは限りません。
こんにちは。羽鳥国際特許商標事務所 副所長・弁理士の羽鳥慎也です。
今回は、有名な子供用椅子「TRIPP TRAPP(トリップ・トラップ)」をめぐる最高裁判決を題材に、商品デザインの守り方を考えてみます。
世界累計販売台数1,400万台超のロングセラーですら、著作権では守られなかった。この判決は、商品デザインを守るうえで、明日からの実務に直結するリアルな話です。
あの「トリップ・トラップ」の形は、著作権で守られるのか?
トリップ・トラップは、ノルウェーのストッケ社などが販売する子供用椅子です。座面や足置きの高さを調整でき、子どもの成長に合わせて長く使える椅子として、世界中で親しまれてきました。実際にどこかで目にしたことがある方も多いかもしれません。
TRIPP TRAPP販売サイトより引用
今回問題となったのは、この椅子に似た子供用椅子(株式会社Nozが製造販売する「Choice Kids」「Choice Baby」)が、日本国内で販売・展開されていたことです。ストッケ社側は、著作権侵害などを理由に、類似製品の製造販売の差止めや損害賠償を求めました。

Choice販売サイトより引用
世界的に知られたデザインであれば、著作権でも守られそうに思えるかもしれません。しかし、最高裁は令和8年(2026年)4月24日の判決(令和7年(受)第356号)で、トリップ・トラップの形状について著作物としての保護を認めませんでした。[1]
実は、この結論にたどり着くまでに、裁判所の考え方は10年あまりの間に大きく揺れ動いてきました。まずはその流れを簡単に振り返ってみます。
同じ椅子なのに、判断は11年で大きく変わった
トリップ・トラップ事件は、今回の最高裁判決に至るまでの間、裁判所が著作物性を「どんな基準で判断するか」を何度も変えてきたことがわかります。
2015年(平成27年)知財高裁:「作り手の個性が出ていればOK」[2]
知財高裁は応用美術(実用品のデザイン)にも他の著作物と同じ「作成者の個性が発揮されているか」という基準を当てはめ、トリップ・トラップの形には「個性」があるとして著作物性を肯定しました(ただし結論として侵害は否定)。このような実用品のデザインにも著作物があると判断された、当時センセーショナルな判決でした。
2024年(令和6年)知財高裁:「機能と切り離して美的鑑賞できればOK」[3]
一転、知財高裁は方針を改め、「実用機能と独立して、それ自体が美的鑑賞の対象になる部分があるか」を基準に据えました。そして本件椅子については著作物性を否定しています。
2026年(令和8年)最高裁:「機能と別個に、創作的な表現として把握できるか」
そして最高裁が、応用美術について初めて実質的な判断を示しました。
「美的鑑賞」という言葉をあえて避け、「機能に由来する構成とは別個に、思想又は感情の創作的な表現として把握できるか」という基準を採用したのです。
着目するポイントが「個性」→「美的鑑賞の対象になるか」→「機能と別個の表現といえるか」と移り変わってきたわけです。
裁判所が「これは芸術か」を判定するのではなく、「機能から切り離せる表現があるか」を見る。最高裁が示した視点は、これまでの基準より一段、客観的な切り口に近づいたものといえます。
なぜトリップ・トラップは「機能から切り離せない」とされたのか
最高裁が注目したのは、トリップ・トラップを特徴づける「床から斜めに立ち上がるL字型の側木」「約66度という角度」「側木に並ぶ多数の溝に座面板と足置き板をスライドさせて固定する仕組み」といった形状の一つひとつです。
これらはいずれも、「子供の成長に合わせて高さを調整する」「椅子を安定させる」「子供がのぼり降りしやすくする」といった、子供用椅子としての機能から説明できてしまう形でした。最高裁は、ここから機能とは別個の創作的な表現として把握できる要素を見いだせない、と結論づけたのです。
判決の背景には、制度的な配慮もあります。
著作権は、登録手続を必要とせず自動的に発生し、しかも著作者の死後70年という長期間にわたって続く権利です。仮にトリップ・トラップの形そのものに著作権が認められれば、独自に開発した類似機能の椅子も自由に販売できなくなるおそれがあります。
日本には、実用品の形を保護するための 意匠法 という別の制度(保護期間は出願日から25年)があり、最高裁は、量産実用品の形を著作権で広く守ってしまうと、この意匠法のたてつけを崩しかねないとして、慎重な姿勢を示しました。
もっとも、最高裁は実用品でも著作権で保護されうる場合があることも明示しています。
具体的には、
①椅子の表面に機能と無関係な装飾画が描かれているような場合 や、
②商品全体を彫刻として把握できるような場合 です。
実用品のデザインが一律に著作権で守れないわけではなく、「機能から切り離せる創作的な表現といえる部分があるか」が分かれ目になります。
商品デザインを守るなら、まず「意匠登録」
では、商品デザインはどのように守ればよいのでしょうか。
中心になるのは、意匠登録です。
意匠権は、商品の形や見た目を保護するために用意された権利です。
家具の形、雑貨のデザイン、容器の形状、パッケージの見た目など、商品を見たときに「このデザインが特徴だ」といえる部分を、権利として守ることができます。
著作権が「創作的な表現」を保護する制度であるのに対し、意匠権はまさに、実用品のデザインを保護するために用意された制度です。
今回の最高裁判決が「量産実用品の形は本来意匠法で守るべきもの」という整理を明確に打ち出した以上、商品デザインを守る場面では、意匠登録をまず検討するのが王道といえます。
意匠権は自動では発生しません。特許庁に出願し、審査を受け、登録されることで初めて権利になります。しかし、登録されれば、出願日から25年間、登録デザインや類似するデザインの実施を独占できます。
デッドコピーに限らず、需要者から見て「似ている」と感じられる範囲まで権利が及ぶのが特徴で、製品の一部分だけを保護する 部分意匠、バリエーション展開を一体的に守る 関連意匠 といった制度も活用できます。
「著作権と意匠」2つの制度の使い分け
商品のデザインに関係する主な制度は、「著作権」と「意匠権」です。それぞれの役割を整理しておきます。
■ 著作権
・ 守るもの :創作的な表現(小説、音楽、美術、写真、映像など)
・ 発生のしかた:自動発生(登録不要)
・ 保護期間 :著作者の死後70年
・ 強み :手続が不要で、長期にわたって保護される
・ 弱み :量産実用品の形そのものは、原則として対象外(今回の最高裁判決)
■ 意匠権
・ 守るもの :商品の形や見た目(家具、雑貨、容器、パッケージなど)
・ 発生のしかた:特許庁への出願 → 審査 → 登録
・ 保護期間 :出願日から25年
・ 強み :登録デザインに加え、類似するデザインにも効力が及ぶ/部分意匠(製品の一部分だけを保護)や
関連意匠(バリエーション展開を一体的に保護)といった制度で柔軟に展開できる
・ 弱み :出願・審査のコストと時間がかかる/販売前に準備しておく必要がある
つまり、商品デザインを長期にわたり、しかも類似品まで含めて守りたいなら、意匠登録を中心に置くのが王道です。著作権は、商品にあしらわれたグラフィックやイラストなど「機能から切り離して、表現として把握できる部分」を補完的にカバーする位置づけと考えると、最高裁判決を踏まえた現実的な棲み分けになります。
商品開発の現場では、機能、コスト、販売スケジュールが優先され、知財の検討は後回しになりがちです。しかし、類似品が出てきてから動こうとしても、すでに意匠登録のタイミングを逃していて選べる手段が限られてしまうことがあります。
だからこそ、商品デザインを自社の強みとして活かしていくのであれば、販売開始前の段階で、意匠登録という選択肢を具体的に検討しておくことが大切です。
まとめ
今回の判決は、トリップ・トラップという商品のデザイン価値を否定したものではありません。
むしろ、有名で美しいデザインであっても、著作権だけに頼ると守りきれない場面があること、そして商品デザインを事業上の資産として守るためには、意匠登録を中心とした適切な保護方法を検討する必要があることを示した事例といえます。
商品やサービスを守る知的財産権には、それぞれ役割があります。名称やロゴは商標、形状や見た目は意匠、技術的な工夫は特許・実用新案。
何を守りたいのかによって、選ぶべき制度は変わります。
新商品の発売前に「この商品の見た目をどこまで意匠登録するか」「ロゴや製品名は商標登録するか」「技術的な工夫は特許化するか」を整理しておくと、後で類似品が出てきたときの選択肢が大きく広がります。
羽鳥国際特許商標事務所では、特許・商標・意匠を含め、商品やサービスの内容に応じた知的財産の保護についてご相談を承っております。
新商品や新サービスの展開にあたり、どの部分をどの権利で守るべきかお悩みの場合には、ぜひ一度ご相談ください。

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【参考文献・参照判決】
[1] 最判令和8年4月24日 令和7年(受)第356号〔TRIPP TRAPP III事件〕:裁判所HP
[2] 知財高判平成27年4月14日 平成26年(ネ)第10063号〔TRIPP TRAPP II事件〕:裁判所HP
[3] 知財高判令和6年9月25日 令和5年(ネ)第10111号〔本件原審〕:裁判所HP
[4] 東京地判平成22年11月18日 平成21年(ワ)第1193号〔TRIPP TRAPP I事件〕:判決全文PDF




