羽鳥国際特許商標事務所

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「ちぃたん☆」と「しんじょう君」に何があった?キャラクターをめぐる知財トラブルを解説

こんにちは。羽鳥国際特許商標事務所の弁理士、羽鳥慎也です。

皆さんは、「ちぃたん☆」と「しんじょう君」というキャラクターをご存じでしょうか。どちらもカワウソをモチーフにしたかわいらしいキャラクターで、見た目がよく似ていることでも知られています。

実は、この2つのキャラクターをめぐって、2019年から長年にわたる裁判が続いていました。2026年10月7日、知的財産高等裁判所(知財高裁)は、高知県須崎市に対して約1,887万円の損害賠償を命じる判決を言い渡しています(市は同月21日に上告しており、裁判はまだまだ続きそうです・・・)。

なぜ2つは似ていたのか。そして権利を持つはずの市が、なぜ逆に賠償を命じられたのか。事件の経緯を振り返りながら、初心者の方にもわかりやすく解説します。

そもそも「しんじょう君」と「ちぃたん☆」とは?

高知県須崎市の「しんじょう君」

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「しんじょう君OFFICIAL WEBSITE」より引用

「しんじょう君」は、高知県須崎市のマスコットキャラクターです。モチーフは新荘川で目撃されたニホンカワウソで、2016年の「ゆるキャラグランプリ」でグランプリを獲得しました。著作権や商標権は須崎市が持っています。

人気キャラクター「ちぃたん☆」

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「カワウソちぃたん☆OFFICIAL WEBSITE」より引用

一方の「ちぃたん☆」は、2017年に誕生したキャラクターです。もともと実在のコツメカワウソ「ちぃたん」が須崎市の観光大使を務めており、それを着ぐるみ化したのがちぃたん☆でした。SNSでは体を張った動画で人気を集めています。

実はこの2つ、同じデザイナーが手がけており、ちぃたん☆はしんじょう君をベースにデザインされたキャラクターです。当初は対立などなく、イベントや動画で共演する仲でした。

仲の良かった2つのキャラクターが、なぜ対立することに?

ちぃたん☆が活動を始める直前の2017年11月、市の担当者は運営会社に「しんじょう君を製造する訳ではないので特に許可は必要ございません」とメールを送っていました。市は着ぐるみ製作を把握したうえで観光大使の委嘱式に出席させ、共演動画も配信しています。

転機はちぃたん☆の動画でした。草刈り機を振り回すなど過激な内容が増え、見た目の似たしんじょう君を運営する市にも100件を超える苦情が寄せられたのです。

市は2019年1月、カワウソちぃたんを観光大使から解任し、運営会社に「無断制作による著作権侵害だ」と通知しました。記者会見でもそう発表し、ちぃたん☆が出演するテレビ局にも書面を送っています。

同年、市は使用差止めの仮処分を申し立てましたが、却下されました。この時点で「市は利用を黙示に許諾していた」との判断が示されています(知財高裁で確定)。

それでも市が侵害の主張を続けたため、2021年、今度は運営会社が「活動を妨害された」として市を提訴しました。市も使用差止めを求めて反訴し、本格的な裁判になります。

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何が法律上の問題になったのか?

この裁判の結論は、一見不思議です。しんじょう君の著作権を持つ市のほうが負けて、賠償まで命じられたからです。

裁判所の判断は、次の2段階で理解するとすっきりします。

1. ちぃたん☆は著作権侵害ではない。 しんじょう君に似ていても、市が利用を「許諾」していたから。
2. 許諾していたのに「侵害だ」と公表したのが問題。 事実に反する指摘で相手の信用を傷つけたため、市が賠償責任を負う。

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この2段階を支える3つのポイントを、順に見ていきます。

ポイント① 似ているキャラクターは、許可がなければ著作権侵害になりえた

著作権は、イラストや文章などの創作物を保護する権利で、キャラクターのイラストも対象です。

ただし、似ているだけで侵害にはなりません。保護されるのは具体的な「表現」であり、「カワウソのキャラクター」というアイデアは誰でも使えるからです。

今回のちぃたん☆は、しんじょう君と同じデザイナーが、しんじょう君をベースにデザインしたものでした。

法律的にいえば、ちぃたん☆はしんじょう君という「原作」を元にした「二次的著作物」にあたり、原作の著作権者である市の許可なしには作れないものです。つまり市は、本来なら「無断で作った」と主張できる立場にありました。

ポイント② ところが、契約書がなくても「許諾」は成立する

ここで登場するのが「黙示の許諾(もくじのきょだく)」です。はっきり許可すると言っていなくても、言動や経緯から許可があったと認められる場合がある、という考え方です。

裁判所が重視した事実は3つです。担当者の「許可は必要ございません」というメール。着ぐるみ製作を知ったうえでの委嘱式出席と共演動画。苦情が来た後も中止を求めず、「基本的に大丈夫」と伝えていたことです。

これらから裁判所は、市は2017年12月までに、ちぃたん☆を使った商業活動まで黙示に許諾していたと判断しました。「自治体が稟議も決裁もなく許諾するはずがない」という主張は退けられています。

市は「撤回した」「解除した」「無償だからいつでも終了できる」とも主張しました。しかし裁判所は、運営会社が許諾を前提に多額の投資をしている以上、信頼関係が壊れるなどの特別な事情がなければ一方的に終了できないとして、認めませんでした。

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ポイント③ 「侵害だ」と公表すること自体が、法律違反になった

利用が許諾されていた以上、市が述べた「無断制作による著作権侵害」は事実に反することになります。

ここで関係するのが不正競争防止法です。競争相手の信用を害する虚偽の事実を取引先などに告知・流布する行為を禁じています(2条1項21号)。「あの会社は当社の権利を侵害している」と伝えたが、実は侵害ではなかった、という場合がこれにあたります。

市は「正当な権利行使だ」「自治体として説明義務があった」と反論しました。しかし裁判所は、メールのやり取りも確認せず協議もしないまま断定した点を問題視し、正当とはいえないと判断しています。相手が自治体のため、賠償は国家賠償法に基づいて命じられました。

裁判所はどのように判断したのか?

2025年2月7日、東京地裁は黙示の許諾を認めて市の差止め請求を退け、市の通知や発言を虚偽の告知と判断して約786万円の賠償を命じました。

市は控訴しましたが、2026年10月7日の知財高裁判決も一審を維持し、賠償額を約1,887万円に増額しました。CMや商品化、ムック本の中止など、失われた取引機会を一審より広く認めたためです。

なお、須崎市は2026年10月21日にこの判決を不服として上告しており、裁判はまだ最高裁に続いています。

注目したいのは、「似たキャラクターを作ったか」だけで結論が決まったのではない点です。両者の関係、やり取り、その後の行動の積み重ねが、裁判所の判断を左右しました。

この事件から学べる、キャラクターの知財管理

企業や自治体がキャラクターを活用する際に当てはまる教訓は、3つあります。

1. 「許可は不要」の一言が、無期限のライセンスになる。

メール一通が、無償・無期限で商業利用まで認めた許諾と評価されました。他社に利用やコラボを認めるときは、範囲・期間・グッズ化や再許諾の可否・終了条件を、書面で決めておく必要があります。

2. 著作権は「お金を払えば自分のもの」ではない。

外部デザイナーに制作を依頼しても、制作費を払っただけでは著作権は移りません。誰が著作権を持つのか、派生キャラクターを作ってよいのかを契約で明確にし、名前やデザインは商標登録での保護も検討しましょう。

3. 「侵害だ」と言う前に、過去のやり取りを確認する。

通知や公表に踏み切る前に、権利関係と過去の合意内容を十分に確認しなければなりません。怠れば、今回のように権利を守ろうとした側が逆に賠償責任を負います。

まとめ

この裁判は、見た目が似たキャラクター同士の争いではありませんでした。同じデザイナーが手がけ、協力関係にあった両者が対立し、「許諾があったのか」「侵害だと公表してよかったのか」が問われた事件です。

キャラクターの知的財産を守るには、権利を取るだけでなく、誰がどんな条件で利用できるのかを明確にしておくことが欠かせません。制作段階から権利関係を整理し、安心して活用できる環境を整えておきたいものです。

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羽鳥国際特許商標事務所では、キャラクターやロゴの商標登録に加え、キャラクター制作を外部に委託する際の契約内容の確認や、他社とのコラボ・ライセンスに関する契約面の整備についてもご相談を承っております。自社キャラクターの権利関係を見直したい企業・団体の方は、羽鳥国際特許商標事務所までご相談ください。

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