羽鳥国際特許商標事務所

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『国内優先権制度』とは?わかりやすく解説

技術開発を進めていると、最初に出願した発明をさらに改良したり、新しい発明が生まれたりすることは珍しくありません。
このような場合に役立つのが「国内優先権制度」です。

国内優先権制度を利用すれば、先に出願した発明と、その後改良した発明をまとめて権利化できる可能性があります。研究開発を段階的に進めたい企業にとって、非常に有用な仕組みです。

国内優先権制度の基本

国内優先権制度は、「先の出願(最初の出願)」を基礎に、1年以内に行う「後の出願」に優先権を与える制度です。

対象者:先の出願をした人(またはその承継人)に限られます。
     共同出願の場合は、全員が一致していなければ優先権を主張できません。

期間 :先の出願から1年以内に後の出願を行う必要があります。

     やむを得ない事情があれば、1年2か月まで延長が認められるケースもあります*1。

効果 :後の出願のうち、先の出願に記載されていた部分については「先の出願日」にさかのぼって

     審査されます。
     つまり、他社が途中で似た発明を出願していても、その部分は守られるのです。

例えば、A社が「特許出願①」を行った後、改良した「特許出願②」を出したとします。
このときA社が優先権を主張すれば、②のうち①に記載されていた部分は「出願①の時点」に戻って審査されます。結果として、①と②を合わせた形で保護を受けられるのです。

*注釈(1)
例外的に、次の2つの条件をいずれも満たす場合には、優先期間(1年)を過ぎた後でも国内優先権の主張が認められることがあります(特許法第41条第1項第1号括弧書き)。

1. 優先期間を過ぎたことが「故意によるもの」でないこと
2. 優先期間経過後、2か月以内に後の出願を行っていること

ただし、このような例外的な取扱いを受けるためには、高額な特許庁手数料(2023年5月時点で212,100円)の納付が必要ですので、通常の優先期間内(1年以内)に国内優先権の主張を行うことをおすすめします。
※「故意でないこと」の判断基準については、特許庁の公式サイトをご参照ください。

国内優先権制度の活用パターン

実務でよく利用される活用方法は、大きく分けて4つあります。

1. 実施例を補充するパターン

最初の出願で請求項を広く書いたけれど、実施例(具体的な使用例)が足りなかった場合に有効です。

例)請求項に「鎮痛剤」と書いたが、実施例としては「頭痛に効く」としか記載されなかったケース。このままだと「頭痛薬」に限定解釈される恐れがあります。
そこで、後の出願で「筋肉痛にも効く」「直腸痛にも効く」といった実施例を補充し、鎮痛剤全般を広く守れるようにするわけです。

2. 単一性のある新たな発明を追加するパターン

「単一性」とは、複数の発明に共通の技術的特徴がある場合に、一緒に出願できることを指します。

例)「植物栽培用の換気構造」を最初に出願した後に、さらに「その換気構造を備えた栽培施設」を発明したケース。
この場合、換気構造と栽培施設は関連が深いため、国内優先権を使うことで両方をまとめて保護できます。

3. 下位概念を上位概念にまとめるパターン

最初は狭い範囲で出願したけれど、その後の研究で応用範囲が広がったときに役立ちます。

例)「防水加工を施した壁材」を出願した後、「屋根材や床材にも同じ技術を使える」とわかった場合。
ここで「防水加工を施した建築材料」として出願し直すことで、広い概念での権利化が可能になります。

4. 補正の代わりに利用するパターン

出願書類に誤記や説明不足があったときに使います。

通常は補正書で直しますが、「新規事項の追加」と判断されると補正が認められず、拒絶される可能性があります。
このリスクを避けるために、国内優先権を使って新しい出願を行い、内容をきちんと直した形で再度出願することができます。

制度利用上の注意点

国内優先権制度は非常に有用な仕組みですが、正しく理解しておかないと「想定していた発明が守られない」「先の出願が取り下げ扱いになる」といったリスクもあります。ここでは、特に注意すべき4つのポイントを詳しく見ていきましょう。

① 先の出願に記載されていない内容は優先されない

国内優先権が認められるのは、あくまでも「先の出願(最初の出願)」に記載されていた内容に限られます。
つまり、後の出願で新たに追加した改良点や新技術については、後の出願日を基準に新規性・進歩性が審査されます。

たとえば、

・出願①では「Aの構造」を出願(例:4月3日)

・出願②で新たに「Bの構造」を追加(例:10月5日)

という場合、Bの部分は出願②の日付時点(10月5日)で評価されるため、その間に他社が同様のBの構造を公開していると、Bの構造は公知となるため、新規性がないとして拒絶されるおそれがあります。
したがって、最初の出願時点で、可能な限り詳細な内容を明細書に盛り込むことが重要です。

② 先の出願は「1年4か月」でみなし取り下げになる

国内優先権を主張すると、先の出願は出願日から1年4か月経過時点で「取り下げたものとみなされる」というルールがあります。
これは、同じ発明を二重に保護することを避けるための仕組みです。

ただし、出願日から1年4か月以内であれば、優先権の主張を取り下げることも可能です。
取り下げを行うと、先の出願が取り下げられた扱いにはならず、両方の出願が独立した状態に戻ります。

したがって、研究の進捗や審査状況を見ながら、どの出願を活かすか、どの段階で取り下げるかを慎重に判断する必要があります。

③ 複数の出願を基礎にできるが「最も早い出願日」が基準

国内優先権制度では、複数の先の出願をもとに優先権を主張することも可能です。
例えば、

・出願①:「Aの構造」

・出願②:「Bの構造」

 を基礎として、出願③で両方をまとめるケースです。

この場合、優先権主張期間の起算点は最も早い出願日(出願①)になります。
つまり、出願③は「出願①の日から1年以内」に行う必要があるという点に注意が必要です。

④ 累積的な国内優先権の主張はできない

「累積的」とは、優先権を連鎖的に使うことを指します。

たとえば、

・出願① → 優先権主張して出願②

・出願② → さらに優先権主張して出願③

このようにすると、実質的に出願①の優先期間が延びてしまうため、法律上は認められていません。

ただし、出願①の日から1年以内であれば、出願①と出願②の両方を基礎として出願③を行うことは可能です。
このように、「優先権を重ねる」ことは不可でも、「複数の出願を同時に基礎にする」ことは可能という点を正しく区別しておく必要があります。

【補足:既に審査請求を行っている出願を基礎にする場合】

国内優先権を主張しようとする「先の出願」について、すでに審査請求を行っている場合でも、制度の利用は可能です。
この場合、先の出願は国内優先権を主張した後、出願日から1年4か月を経過した時点で「みなし取下げ」となります

みなし取下げとなった出願については、特許庁がまだ審査に着手していない限り、納付した審査請求料の2分の1(半額)を返還請求することができます

返還請求が可能となるのは、出願を取下げた場合、出願を放棄した場合、または、みなし取下げとなった場合であり、いずれの場合も、その日から6か月以内に返還請求を行う必要があります。

まとめ

国内優先権制度は、研究開発を段階的に進める企業にとって、非常に重要な仕組みです。
特に、出願を急ぐ必要がある場合や、技術改良を続けながら特許範囲を広げたい場合に有効です。

この制度を活用することで、

・改良発明や追加実施例をまとめて保護できる

・先願主義のもとでも権利を失わずに済む

・出願戦略を柔軟に構築できる

といったメリットが得られます。

一方で、出願日・期間・記載内容などの条件を誤ると優先効果が得られず、想定していた発明が保護されないリスクもあります。
そのため、制度の仕組みを理解したうえで、出願時点から将来的な改良や追加出願を見据えた計画的な知財戦略が欠かせません。

羽鳥国際特許商標事務所では、国内優先権制度を含む特許出願戦略について、開発段階からのご相談にも対応しております。
出願のタイミングや優先権の使い方に迷われた際は、ぜひお気軽にご相談ください

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